2019/2020号

充電管理の完全制御、そしてその先へ

将来に向けた車両制御装置(VCU)テストシステム

Title Charge Management

車両制御装置(VCU: vehicle control unit)が果たす役割は、特に電気自動車において非常に重要なものとなっています。VCUの高い処理能力は、充電管理を含むパワートレインの全構成要素の協調処理や、演算負荷の高いドメイン横断的処理といった複雑なタスクを可能にするものです。その反面、このVCUのテストは環境要件が厳しく、一貫して仮想環境で行われるのが理想です。

今日の「ドメインECU」は以前のECUに比べて技術的に極めて複雑になっており、開発時のテストも非常に多岐にわたります。一方で自動車メーカーは、最短期間で新車種を市場投入しなければならないというプレッシャーにさいなまれています。そうした要因があいまって、テストから適合、評価(妥当性確認)までをハードウェアシステムで行うことは、もはや限界に来ています。このような状況において将来を期待されているのが「仮想システム」です。

中央制御装置であるVCUは、パワートレインの各種コンポーネントの動作を制御し、調整します。クラウドへの接続機能を備えているほか、高度に自動化された車両においては、緊急時に車両を安全に制御する“Fail Operational”機能も提供します。より上位のレベルにおいては、先進運転支援システム(ADAS)への接続など、演算負荷の高いドメイン横断的機能をサポートする優れた実行性能をもつVCUも登場しています。VCUの最も重要な機能のひとつに、充電インターフェースがあります。バッテリー式電動パワートレインを搭載した車が次々と市場に送り出され、バッテリーを唯一の動力源とする場合もあれば、プラグインハイブリッド車のように補助駆動として使用する場合もあります。そうした中で開発者が取り組まなければならない最重要課題のひとつは、電気駆動系が常に安定して稼動するよう、スムーズでシームレスな充電管理プロセスを作り上げることです。

VCUの充電インターフェースのテスト手法のひとつとして、ETAS LABCAR Hardware-in-the-Loop(HiL)システムが利用されています。LABCAR HiLにはさまざまな通信インターフェースが搭載され、VCUのインターフェースに素早く効率的に合わせることができます。充電管理においては、承認(認証)、充電処理の実行(充電性能、充電パラメータ、充電効率、充電スケジュール等の技術的パラメータの伝送)、支払い(料金請求データの伝送)などが扱われます。システムには標準の充電規格(CCS、CHAdeMO、GB/T)のモデルが組み込まれているため、今日一般的に入手可能なほとんどの車種の充電処理をシミュレートできます。 つまりHiLテストシステムは、実社会の充電インフラとまったく変わらない挙動を実現できるのです。

今後、テストと評価の作業はさらに複雑化し、より高い精密さが要求されるものになると考えられます。そうした作業を継続して効率よく成功させようとするならば、従来のHiLテストから「仮想化ソリューション」への移行が避けられないものとなるでしょう。

COSYMはHiLからMiL、SiLへのシームレスな移行を助ける効率的なシミュレーションプラットフォームです。

ETASのテストシステムはこのような移行を支援します。LABCARは、SiL(Soft- ware-in-the-Loop)またはMiL( Model-in-the-Loop)環境へのテストのシームレスな移行を可能にし、テストをそのままローカルPC上やクラウド上で実行できるようになります。このメリットとして、テストの迅速化や、開発プロセスの早期段階でのテスト実施が可能になる、といったさまざまなことがあげられます。クラウドコンピューティングのスケーラブルな計算能力を活用すれば、テストシステムの実行性能を実際の要件に合わせて拡張していくこともできます。このように「仮想化」は、VCU開発の効率を大きく向上させるのです。システムのテストにHiLシステムのみを用いることは、効果的とはいえません。

ETASでは、将来の複雑な要件を満たせるようにデザインされたオープンなシミュレーションプラットフォームを提供しています: ETAS COSYM。COSYMは、組み込みコネクテッドシステムのテストと評価を、HiL環境やそれに代わるSiL/MiL環境において行えるようにする効率的なソリューションです。 つまりCOSYMは、統合されたXiLテストの円滑な実施を可能にします。XiL(X-in-the-Loop)のXは「すべての」という意味を持ち、XiLはHiL、SiL、MiLのすべてを総合的に表すものです。COSYMはクラウド機能もサポートします

まとめ

ETASのテストシステムは未来を見越して設計されており、HILテストの機能に、さらに進んだ仮想化機能が付け加えられています。現在ハードウェアベースの環境で行っているテストから評価、適合までの一連の作業を、純粋にコンピュータベースの仮想環境へとシームレスに移行することができます。その反対に、仮想環境からハードウェア環境への移行も可能です。このようにETASのテストシステムは、充電インターフェースを備えた車両制御装置(VCU)のような極めて複雑なECUの効率的な開発において中心的な役割を果たすことができるのです。

執筆者

Heiko Sutter、ETAS GmbH
テスト・評価分野のシニアプログラムマネージャ

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