2019/2020号

枠にとらわれない発想で

ブラジルでのモデリング作業をETAS ASCMOで迅速化

Formula Student racecar Brazil

サンパウロ大学の学生たちは長年にわたるETASのパートナーです。成功を収めているこのパートナーシップが最近、車両ダイナミクスの領域にも広がりました。

レース用のコースでは、タイヤがチームの競走力を決定的に左右することがあります。特に、追い越しのために一瞬でもブレーキングを遅らせたいときや、勝利へと一気に加速したいときなど。 重要なコンポーネントの挙動を最もよく知り抜いているチームは、必ず他に一歩先んじることができます。それがこの領域で常にたゆまぬ研究が続けられている理由です。

サンパウロ大学(University of São Paulo:USP)のある学生グループはETASのサポートのもと、この課題に正面から挑戦することになりました。 このグループはEquipe Poliレーシングチームに所属し、チームはUSP工学部の代表として、ブラジルの学生のためのフォーミュラSAEエンジニアリングデザイン競技会(ヨーロッパの学生フォーミュラにあたる)に参加しています。フォーミュラSAEはブラジルで大成功を博しており、65チーム、1,300名もの工学系学生を惹き付けています。

この有能な未来のエンジニアたちのチームは何年も前からETASとパートナーシップを結び、パワートレインの設計と評価において優位に立とうと、ETASのINCAと「ブルーボックス」と呼ばれるコンパクトなハードウェアモジュールを使った計測と適合の作業を行ってきました。 最近では、このパートナーシップが車両ダイナミクスの領域にまで広がっています。ETASのエキスパートが協力したタイヤのモデリング作業ではETAS ASCMOが活用され、過去の実績を上回る好成績をもたらしました。ETAS ASCMOは、計測データに基づいたモデルの作成やモデルベース適合を行うためのツールです。最小限の計測データをもとに、最先端の統計的学習手法(ガウスプロセス)を使用することで、複雑なシステム挙動のモデリングから解析、最適化までを高い精度で行うことができます。エンジン適合の分野をリードするソリューションとして評価の高いETAS ASCMOは、そのほかにも、複雑なシステムを記述し、相関関係を確立し、モデルを精緻化するために必要なあらゆる場面に応用できます。

さて、まず学生たちを待っていたのは、50万もの測定ポイントから得られた膨大なデータセットと、気も遠くなるような難題でした。 この大量のデータのどこかに深く埋もれて、非線形的なタイヤ挙動の情報があるはず。それをどうやって取り出せばよいのだろうか? 幸いなことに、ETAS ASCMOはこの目的のために生まれたようなツールでした。学生たちは関連度に基づいて入力すべきデータを決め、800のトレーニングポイントを選択して、すべての関連情報を一つの特性超曲面に盛り込んだグローバル多入力回帰モデルを作成しました。サスペンション設計チームとレースエンジニアチームがタイヤの反応について信頼に足る予測を受け取るまでには、たった数秒しか要しませんでした。もし従来の手法を使っていたら、データの生成に何週間もの時間がかかっていたことでしょう。2019年8月、サンパウロで開かれた第27回International Symposium of Automotive Engineering(SIMEA)において、暫定的な結果が論文として発表されました。 このイベントでのETASのチームの成果は目覚ましく、「設計と自動車技術」部門で「特別賞」を受賞することができました。

しかし挑戦はまだまだ続きます。来シーズンはさらに野心的なアプリケーションを実装し、これまでを上回る車のポテンシャルをサーキットに解き放てることを目指しています。

執筆者

André Pelisser ブラジルのETASフィールドアプリケーションエンジニア
元Equipe Poli Racingチームキャプテン

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