LABCAR-MODELを用いた複雑なエンジンのシミュレーション

Tata Motorsのエンジン管理システムの各種機能の妥当性確認に、ETAS LABCAR-MODEL-VVTBとLABCAR-MODEL-ICEを活用

政府の要件に対応するため、Tata Motorsの乗用車事業部のバリデーションチームはETAS LABCARとLABCARモデルの採用を決定しました。そして閉ループシミュレーションを利用し、実車を必要としない事例の検証に成功しました。

インド政府は2016年に排ガス基準をBS IVからBS VIへと、1段飛びに一気に移行する計画を発表し、しかも2020年までの4年間でこの移行を完了させることとしたのです。これによってガス排出の目標がいちだんと厳しくなるばかりか、2023年までに新たなレベルのOBD(オンボード診断)とRDE(実路走行排気)への対応も必要となりました。しかし困ったことに、この世界第4位の自動車市場は、企業がパワートレインだけに集中して取り組むことを許してはくれません。シャーシ、ボディ機能、インフォテインメント、安全基準(すでに義務化されているABSなど)のほか、快適性を高める各種機能に関しても、新規投入やアップグレードを頻繁に行うことが求められ、企業への重圧となっています。

そうした要求に応えるためエンジニアたちは、車両通信ネットワーク全体とネットワーク内のECUの各種機能の妥当性確認の作業に追われています。従来、車両の各種機能の妥当性確認は実車テストによって行われていましたが、使用できるプロトタイプもテスト車両も少ない中で、限られた時間内にテスト結果を報告し、数々のシナリオの妥当性を確認して自動化を完了することは、決して容易なことではありません。このような課題を乗り越えるためにTata Motors乗用車事業部のバリデーションチームが決断したのは、HiLシステムとLABCARモデルを採用することでした。

HiLシステムではハードウェアインザループ(Hardware-in-the-Loop:HiL)テストが可能になります。LABCAR-MODEL-VVTB(Virtual Vehicle Test Bench)ではきわめて正確なモデルを用いた車両のシミュレーションを、LABCAR-MODEL-ICE(internal combustion engine)では内燃機関のシミュレーションを行うことができます。このテスト環境により、必要なテスト作業の95%近くを実行できます。

テストシステム

車載用ECUをLABCARに接続すると、そのECUは実車のネットワークを模したネットワークの一部となります。エンジン、トランスミッション、ドライブトレインのシミュレーションモデルに加えて、実車に近いシミュレーション環境も構築できます。

LABCAR-MODEL-VVTBとLABCAR-MODEL-ICE

Virtual Vehicle Test Bench(仮想車両テストベンチ)は、車両の各種コンポーネントをシミュレートするための基本的なモデルアーキテクチャを提供するものです。このアーキテクチャは、ドライバーモデル、環境モデル、車両モデル(エンジン、ダイナミクス、ドライブトレイン、トランスミッションを含む)で構成され、各コンポーネントを必要に応じて精密なモデルに置き換えることもできます。

例として、エンジンモデルをより緻密な内燃機関モデルであるLABCAR-MODEL-ICEに変更することが可能です。これはBoschが各種エンジン(ガソリン、ディーゼル、天然ガス)のテストと事前適合用に自社開発したモデルで、内燃機関(ICE)の主要なサブシステム(吸排気系、燃料系、燃焼系、後処理系)を含んでいます。各サブレベルの変数を用いてパラメータ化を行うことにより、目的に合った仕様のエンジンを構築することができます。LABCAR-MODEL-ICEは数学的なデータ駆動型のきわめて精密なモデルで、トルク、慣性モーメント、RPMなどのエンジンパラメータ(次ページの図参照)を、さまざまな車両の入力パラメータとECU制御ロジックに基づいて計算します。

LABCAR-MODEL-ICEはさまざまなエンジンパラメータを計算します。

LABCAR VVTB -動作中のICEモデル

Tata MotorsはVVTBとICEのペアモデルを使って、車両と内燃機関の環境をテストシステム内でシミュレートしています。顧客のディーゼルエンジン車とガソリンエンジン車のラインにおいてETAS IndiaとRBEI(Robert Bosch Engineering and Business Solutions)のグローバルテストチームは、彼らが持つエンジンのパラメータ化能力を発揮しました。パラメータ化の焦点は、チームが必要とする機能の検証をエラーなしで(つまりDTCなしで)行えるようにすることでした。ガソリンエンジンのパラメータ化はBoschのECUを対象に行い、検収時には、顧客側のチームがランダムに複数の機能を検証し、操作がスムーズに行えることを確認しました。VVTBとICEのモデルは長時間稼動させても安定性が高く、シミュレーションのどのポイントでも正確で一貫した結果を得られることが立証されました。ETASのReal-Time PC(RTPC)は、高性能な演算プラットフォームを採用し、きわめて複雑なモデルを高分解能で稼動させて、より正確な結果を得ることができます。

チームはこのリアルタイム閉ループシミュレーションにより、実車を必要としない事例について、全機能のうちのほとんどを検証することができました。また、実車ではとうてい不可能な反復テストや多重テストも実行することができました。正確な閉ループシミュレーションのもう1つの利点は、高速走行や高RPMでの長時間走行といった多様な条件下で車両を「走行」できるということです。また、手動では時間がかかるいくつかのテストを迅速に自動実行することもできました。

展望

正確で忠実度の高いシミュレーションは、あらゆるシステムテスト要件への対応を可能にする重要な資産であり、LABCARモデルはそうした市場のニーズに応えるために作られたものです。LABCARMODEL-ICE/-VVTBは、ETAS ASCMO-MOCAなどのツールやエンジニアリングサービスと組み合わせて、HiLシステムでのEMSソフトウェアの事前適合に使用することができます。チームは今、さまざまなプラットフォームの車載ネットワークに接続した各種ECUの妥当性確認を実施しています。 この作業には、迅速化され精度も増した自動妥当性確認機能が役立っています。このことは必ず、成熟したECUソフトウェアを搭載する新車両のテストの加速化とロールアウトの成功につながるに違いありません。これで、最新のソリューションとともに将来の妥当性確認における課題に立ち向かう準備が完了しました。

執筆者

Myrtle Binil R、ETAS Automotive India Pvt. Ltd.
テスト・妥当性確認ソリューション担当アプリケーションフィールドマネージャ

Harshvardhan Joshi、ETAS Automotive India Pvt. Ltd.
キーアカウントマネージャ

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