2019/2020号

新たなドメインが求める新たなモデル

LABCAR-MODEL製品ファミリーに燃料電池モデルが登場

Fueling H2 gas

温室効果ガス排出の大幅削減と代替駆動方式の開発は切っても切れない関係にあり、いずれも自動車業界にとっての重要課題となっています。そうした中で排出ゼロのエネルギー源として期待をかけられているもののひとつが「燃料電池」です。ETASは長年の研究を経て、Hard- ware-in-the-Loop(HiL)テストとSoftware-in-the-Loop(SiL)テストのための燃料電池システムのシミュレーションモデルを開発しました。このモデルを用いれば、燃料電池ECUとその運用戦略のテストを効率よく実施することができます。

ドイツ政府のClimate Action Plan 2050は、2030年の道路交通による温室効果ガスの排出量を1990年との比較で40%ないし42%削減するという達成目標を打ち出しました。これは乗用車、軽商業貨物車、重量物運搬車、そして公共交通機関を対象とした目標値です。ハイブリッド車と電気自動車の開発によってパワートレインの電動化が進み、自動車部門においては燃料電池も積極的に使われるようになりました。

燃料電池では水素と酸素が反応して電気、熱、水が発生しますが、温室効果ガスは発生せず、有害な排出物はありません。 それでいて、従来の燃料に匹敵するエネルギー密度を得ることができるのです。 自動車に要求される性能レベルを燃料電池で実現するため、多数のセルを組み合わせた「スタック」と呼ばれるモジュールが使用されます。この方法で、商用車向けや乗用車向けなど、さまざまな性能等級に対応する燃料電池システムを実現することができます。

ただし、この種のエネルギー源を安全に個々の車両で稼動させるには、新しいコンポーネント制御装置が必要になります。それが燃料電池制御ユニット(fuel cell control unit:FCCU)と呼ばれるものです。FCCUによって燃料は常に効率よく消費され、 水素と酸素の供給量を調節することによって発電量が制御されます。エンジン制御ユニットには裏付けとなる数十年の開発実績がありますが、FCCUの場合は、わずか数年のうちにすべての開ループ、閉ループの制御機能と診断機能の開発を終え、量産に漕ぎつけなければなりません。このような「ラピッドな」開発サイクルを実現するには、FCCUとその運用戦略についてのテストと評価を仮想的な燃料電池システム(HILやSiLなど)で実施することが必要になります。

ETASとシュトゥットガルト大学は、ある博士論文の執筆過程において、ETAS LABCAR-MODEL-FCという燃料電池システムのシミュレーションモデルを開発しました。 . その際に特に重視されたのは、燃料電池内部の複雑な電気化学的プロセスのパラメータ設定を、簡単な操作で行えるようにすることでした。開発されたモデルは、コールドスタート挙動や水管理を含めた自動車業界固有の要件に対応しています。

高度な数値ソルバを用いることで、シミュレーションモデルによるスタック内の水、温度、電流の分布が検討可能になっています。高い空間分解能によって非線形効果の観察も容易になり、FCCUの複雑な制御機能でさえテストを行うことが可能になりました。

LABCAR-MODEL-FCはLABCAR HiLシステムとCOSYM SiL仮想化ソリューションでの使用に合わせて特別に設計されたモデルです。これらのシミュレーション環境に組み入れられるモデルにするために開発者が特に苦心したのは、リアルタイム対応の実装でした。その努力は実を結び、LABCAR-MODEL-FCは、FCCUのテストと評価に適した現実的な燃料電池システムとして完成したのです。

まとめ

ETASのLABCAR-MODEL-FC燃料電池モデルは真に画期的な製品です。現在も将来も、燃料電池駆動系向けのECUのテストを効率的に、かつ高い信頼性をもって行える、完璧なソリューションを提供します。ここにご紹介したのは、e-モビリティの進歩におけるETASの貢献が目に見える形をとった、ほんの一例に過ぎません。

執筆者

Dr. rer. nat. Martin Rosing、ETAS GmbH
テスト・評価分野のプロダクトマネージャ

LABCAR-MODEL-FCはLABCAR-MODELファミリーの製品です。このファミリーの各モデルは、特定ドメインのECUのテストに特化されています。

科学的に裏付けられた: LABCAR-MODEL-FC

燃料電池駆動システム用ECUのテストと評価を行う際に実物の燃料電池を使用すると、コストと時間を多大に消費するだけでなく、危険な事故を招くおそれがあります。LABCAR-MODEL-FCはETASが自動車業界特有のニーズに合わせて開発した、新しいシミュレーションモデルです。このモデルはETASとシュトゥットガルト大学の監督下で書かれた論文を土台としたものであり、堅固な科学的根拠と実用的視点が結びついて生まれた、エンジニアによるエンジニアのための製品、といえるものです。

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