詳細

ETASでは、車載電子システムの適合・診断・評価を行うための柔軟性に富んだ統合環境INCAファミリを提供しています。INCAは、ETAS独自のイベント同期計測方式により、ECU内部演算値の整合性を確保した計測が可能という優れた機能により、世界のシェアの6割以上(弊社調査による)を占めるデファクトスタンダードとして広く普及しています。INCAは、ECUアプリケーションソフトウェアの妥当性確認や最適化、デバッグ等の作業に携わる開発・適合・テストのエンジニアに必要とされる機能をすべて備えています。INCAは操作が容易であり、使い勝手の良いユーザーインターフェース(日本語・英語・独語・仏語・中国語 対応)が用意されています。

INCAは、制御モデルのイニシャルキャリブレーションから、テストベンチにおけるECUのプレキャリブレーション、そして最終的な実車適合に至るまで、開発工程の全般を通じて活用できます。机上・ラボ・テストベンチ・実車を問わず、あらゆる環境に対応しています。その用途は、PCシミュレーションから実車計装に至るまで幅広く、測定データの解析や適合データの管理など多彩な機能でエンジニアの日常作業を強力に支援します。

INCAは、計測・プロトタイピング・適合・診断アプリケーション向けのコンパクトなETASハードウェアモジュールシリーズや高性能なETK/FETK/XETK ECUインターフェースをサポートしています。お客様固有の環境に容易に組み込んでご使用いただけるように、標準化されたオープンなインターフェースを幅広く提供しています。

計測・ECU適合

INCAは、機能のパラメータ(特性値・特性カーブ・特性マップ等)のオフライン/オンライン適合をサポートし、並行してROM&RAMを管理しパラメータの依存を解消します。高性能なエディタ上に、スカラや特性カーブ・マップを物理値や16進数の表やグラフで表示します。適合シナリオは、特定の機能における複数のパラメータ値に対応し、さまざまな設定の比較を容易にします。

適合データをオフラインで管理するために、データセットのリスト化・比較・マージを行う優れた機能を備えています。また、パラメータや機能の適合プロセスの履歴や進捗情報を示すメタデータの処理を、INCA-QM-BASIC(適合品質情報管理パッケージ)アドオンでサポートしています。

INCAは適合と並行して、ECUとCAN、LIN、イーサネット、FlexRayなどの車載バスからデータを収集します。また、センサや車両環境からの信号も計測します。計測・適合変数に由来するデータをオンラインで計算したり表示したりできます。複数のレコーダによるデータ記録の開始と停止を高度なトリガ条件によって行うことができ、いくつかのデータをそれぞれ異なるトリガ条件で同時に記録することも可能です。記録されるデータには、計測信号、演算信号、適合パラメータ、トリガオプション、ユーザーコメントが含まれます。

ODX-LINKを導入すると、車両診断やECUプログラミングを検証するためのODXベースのソリューションをINCAで実現することができます。

診断

INCA基本ソフトウェアにアドオン製品ODX-LINK(診断統合パッケージ)を組み込むことで、計測・適合にECU診断の機能を追加することができます。

INCAとODX-LINKは、適合・診断に関する信号値を並行して取得します。双方の信号値は同様の手法で、導き出される信号値のトリガや演算に使用することができます。あらゆるデータが1つの測定ファイルに記録され、同一のウィンドウに表示されます。共通のECU/バスインターフェースモジュールで、適合・診断の作業に対処します。

ODX-LINKは、OBD(オンボード故障診断)排ガス規制で必要とされる診断サービスに基づいたスキャンツールの機能を統合します。ISO 15031-5やSAE J1979に定義されたサービスに基づいて、ODX-LINKに搭載されたOBDスキャンツールビューに、フォルトメモリの項目やモニタリング機能のステータス、車両情報、使用中のモニタ性能比、フリーズフレーム(周辺データ)等が表示されます。

ODX-LINKは、ODX規格に準拠したECUの診断サービスを容易にします。INCAではサービステスタをエミュレートし、トラブルシューティング機能を実行することも可能です。これにより、サービステスタが存在しない開発早期の段階から、サービス診断機能を評価することができます。さらに、リモート操作が可能なODX-FLASH(フラッシュ統合パッケージ)を組み込むことにより、INCA/ODX-LINKは、ODXベースの車載診断の評価とECUリプログラミングを行うための優れたソリューションを提供します。

計測データの解析

ECU開発工程では、さまざまに異なる適合パラメータ値に関する測定データを比較する必要があります。測定データアナライザMDAは、INCAで記録された測定データの表示・後処理・解析・文書化といった一連の作業を行います。MDAでは、ECUやセンサ、車載バスから得た信号値と、診断データの相関関係が評価されます。定義済みのコンフィギュレーションを利用すれば、測定値を一定の様式で表示することができます。個々の記録に関わらず、同じ信号に対して同じ表示・設定を適用できるため、類似の測定値同士を容易に比較できます。評価ウィンドウを印刷する際は、レイアウトを調整して、そのプロジェクトに最適な様式で測定結果を表示することができます。

シミュレーションやプロトタイピング、機能検証の過程で、測定データは外部信号として利用できます。MDAを使用すれば、テストベンチは外部信号として利用できます。MDAを使用すれば、テストベンチや車上で記録された生の測定データから、外部信号値を選択して活用することができます。MDAは大量の測定データを処理する能力を備えており、開発ツールやテストツールに広く採用されているMDFファイル形式(ASAM規格)をサポートしています。

テストベンチでの計測・適合

INCAは、テストベンチの自動化システムに接続するため、ASAP3プロトコルやASAM MCD-3MCオブジェクトモデル等のインターフェースをサポートしています。これらの標準化されたインターフェースで実現される適合サイクルタイムは定常実験に最適です。

高速計測・適合の手法は、INCA-MCEアドオンによりサポートされています。INCA-MCEは、テストベンチの自動化ツールからECUへのリアルタイム接続を提供し、卓越した計測・適合パフォーマンスを実現します。

INCA-MCEは、リアルタイムECUインターフェースとして機能するプロトタイピング/インターフェースモジュールES910上で動作します。ES910とテストベンチの接続には、標準のEtherCATやアプリケーション固有のiLinkRT Ethernetリアルタイムプロトコルが使用されます。これらのプロトコルにより、自動化ツールとINCA-MCEは物理値を使用して、名前で指定された計測・適合パラメータを交換します。ECUと通信するために、INCA-MCEはすべてのデータを適切なメモリアドレスとバイナリ値に変換します。

INCAの包括的な計測・適合機能は、PCシミュレーションやプロトタイ ピングにおいて最大の効果を発揮します。PC上のモデリング環境で 新しいソフトウェア機能の挙動のシミュレーションを行う開発手法は、従来から行われています。プロトタイプは、現実の環境で新しい機能 の妥当性確認を行う際に使用されます。

制御機能のプロトタイプは、異なるターゲットに実装可能で、必要に応じてECUや実験用システム、PC上で実行されます。INCAには、シミュレーションやプロトタイピングの環境に関わらず、計測・適合アクセスを確立するためのアドオン製品が豊富に用意されています。INCAは、TCP/IP通信でXCPプロトコルを使用して、PC上のシミュレーション環境に接続します。INCA-SIP(Simulink®統合パッケージ)は、開発早期にPC上でINCAを使用して、Simulink®モデルの妥当性確認・机上適合・テストを可能にします。プロトタイピング環境構築ツールINTECRIOは、Simulink®やASCETで作成されたモデルに加え、既存のCコードをモジュールとして統合することができます。INCA-EIP(実験ターゲット統合パッケージ)は、PC上で実行しているINTECRIOのプロトタイプや、実験用システムに実装されたINTECRIOやASCETのプロトタイプへのアクセスを提供します。各工程で同じINCAツールを使用することで、適合値の最適化を円滑に行うことができます。

INCAファミリは、テストベンチの自動化システムのインターフェースに加え、コンフィギュレーションやデータ変換、文書化、ユーザーアプリケーションとの統合のために、標準のオープンインターフェースを幅広く提供しています。

ECUアクセスのコンフィギュレーションは、ASAM MCD-2規格に従い、A2LやODX形式のディスクリプションファイルを使用して行います。FlexRay、CAN、LIN上のバス通信は、FIBEXやCANdb、LDFの各形式で記述されます。適合データはhex形式で保存され、適合パラメータのサブセット変換のため複数のASCII形式がサポートされています。測定データはMDFファイルに記録されます。バイナリの測定データ形式MDFは、オートモーティブ・テスティングの業界標準として、MATLAB®やFAMOS等の定評ある評価ツールによってサポートされています。

INCAは、パラメータリストと適合データの結果をXML形式で表示します。実験や接続先ハードウェアの構成についてもXMLファイルで文書化されます。INCA上でパラメータと制御モデルのディスクリプションの相互アクセスを可能にするために、オープンインターフェースにより、ユーザー側でPDFやWindows® Help HTML形式のECUドキュメントを容易に統合させることができます。

ツール統合のために、INCAはAPI(Application Programming Interface)を提供しています。COM-APIはMicrosoftCOM(Component Object Model)規格に基づいています。COMAPIは、INCAの大半の機能をリモート制御し、最大限の柔軟性を提供します。INCA-MIP(MATLAB®統合パッケージ)は、MATLAB®のスクリプトを利用して適合手順の自動化や半自動化を図ることを可能にします。INCA-MIPによってスクリプトに提供された手動入力の内容を、MATLAB®の豊富なライブラリやツールボックスを利用する数値計算や最適化ルーチンに組み込むことができます。

プログラミングインターフェースINCA-INS.DKを導入すると、計測値や適合パラメータを表示するためのウィンドウをユーザーが独自に開発してINCAの実験環境に統合することができます。